【雲ノ平、後方は薬師寺】
4年前の8月に北アルプス・雲ノ平で偶然にも知り合った京都市に在住の0氏から昨日、手紙を戴いた。0氏は深田100名山と200名山の完登は既に終了しており、今は300名山の完登を狙って、今夏は北海道の山々を登り、現在288座を登頂したと綴っていた。私より12歳も年上にもかかわらず、0氏の健脚ぶりに驚かされた。彼と出逢ったところは、私が深田久弥100名山を追っかけていたときで、場所は前日に薬師岳を登頂し、水晶岳に向かう途中の雲ノ平だった。出逢ったときは200名の名山完登を目指していた0氏は、この4年間でそれを終えて、300名山の完登間近の288座を登頂しているとは本当に驚いた。
【水晶岳から見た雲ノ平】
世の中にはすごい人が存在し、その人達に出会ったときには必ず自分の卑小さを思い知り、彼らに少なからず刺戟を受けた。数々の山を知ったのも、山で出逢った岳人達のかげによる。「あの山だ良かった!この山が良かった!」と聞けば、その山へ行きたくなった。そして、山の情報を得た後は、実際に自分もその山へ足を伸ばした。
私よりも一回りも年上の0氏に出逢ったときにも、彼らから刺戟を受けたのは勿論のことだった。雲ノ平がら水晶小屋までのわずかな時間に話した内容は山だけではなく、社会全般に至るまで、見ず知らず同士の初対面にもかかわらず、いろいろな会話が成り立った。あかの他人同士でも会話ができるのも山のおかげであり、すぐに打ち解けて裸のままの自分をぶつけられる。勿論、相手によりけりだが…。
0氏とは何を話したか忘れてしまったが、覚えているのはアフガニスタン・ペシャワール会の医師中村哲さんのことだった。どういう話の経過で中村哲さんの話題になったのか?今となっては思い出せないが、0氏はペシャワール会を知っていた。また私と同様に中村哲さんの生き方に賛同し、アフガニスタンの人々に対する米軍の殺伐行為に憤りを感じていた。良識を持っている人ならアルカイダ殲滅を口実に、アフガニスタンを爆撃し罪のない民衆を繰り返し殺伐しているアメリカに対しては当然のことだ。0氏と私はその他に関しても社会への観点が不一致していたので、意気投合した。彼とは水晶小屋までご一緒したが、私より先に水晶岳から200名の赤牛岳を登頂のために出発した。少し遅れてから私も水晶岳へ向かい、水晶岳山頂に立っていた彼にエールを送った。
【水晶岳】
その0氏からの頼りには、300名山の登頂のほかに東京に在住の息子夫婦の4歳の子どもの尿にセシウムが検出されてのを機に、息子の嫁さんは私立女学校の教師を辞めて、京都市に住む0氏の近所に転居してきたことが書いてあった。そして0氏が関係する会報に投稿した「メルトダウン化する政治を糾す」という原稿が同封してあった。そこには原発を推進している政府の欺瞞性をあばき、反原発への思いと今後の指針などが載っていた。
北アルプスで偶然に出逢った人と、私の思想信条・趣味そして行動がこれほど似ているとはただ驚くと同時に、強い連帯感が湧いた。山での出会いが、また私に歓びを与えてくれた。
2012/9/26